猫の避妊・去勢手術

避妊・去勢手術について

近年、避妊手術・去勢手術を受けるワンちゃんが多くなってきていますが、受けさせるか迷っているという相談も多く寄せられます。 そこで、ここでは避妊手術・去勢手術のメリット・デメリットおよび当院での手術方法をご紹介します。是非、ご参考になさってください。

避妊・去勢手術について

手術のメリット

発情時のストレスからの開放

発情時には、異性の動物が気になってしまうため、行動が落ち着かなくなり、動物にはかなりのストレスがかかっています。中には発情の時期に体調を崩してしまうネコちゃんもいます。また、発情時には特有の鳴き声を発します。

生殖器系の疾患の予防

ワンちゃん程ではありませんが、ネコちゃんも、ホルモンの影響によって起こる疾患があります。避妊・去勢手術を行うことで100%生殖器系の疾患を予防できるわけではありませんが、ある程度の生殖器系疾患が予防可能となります。
代表的な疾患は以下の通りです。

雌猫の場合

卵巣腫瘍
子宮蓄膿症
乳腺腫瘍

雄猫の場合

精巣腫瘍
前立腺疾患

望まれない繁殖を防ぐことができる

特にお外に行くネコちゃんや多頭飼いの場合は、是非手術を行うようにしてください。

行動学的なメリット

行動学的な変化は、個体差や手術時の年齢などが関係してくるので、必ず効果があるわけではありませんが、マーキング行動が減少したり、性格が穏やかになったりすることがあります。

手術のデメリット

子供を生むことができなくなる・太りやすくなる・全身麻酔が必要

特に、高齢の場合や何か疾患がある場合には、麻酔のリスクも上昇します。したがって、手術の前には全身状態の検査を行い、麻酔をかけられるかの評価を行います。

手術の時期

猫種にもよりますが、多くの猫は6~9ヶ月齢時に性成熟を迎えますので、それくらいの時期を目安に手術の予定を組み立てると良いでしょう。特にマーキング行動の減少や性格が穏やかになることを期待するのであれば、なるべく早期の6ヶ月齢頃を目安にすると良いでしょう。

避妊手術・去勢手術方法

避妊手術

避妊手術の方法には卵巣摘出術と卵巣・子宮摘出術がありますが、当院では基本的に卵巣摘出術を行っております。 その理由としては、発情に関連する性ホルモンは主に卵巣から分泌されているため、卵巣のみの摘出でも先に述べた避妊手術の効果を十分達成できるからです。また、卵巣摘出術の方が手術時間や出血量を最小限に抑えることができます。 避妊手術では卵巣の血管は吸収糸で縛ります。

去勢手術

陰嚢を切皮して左右の精巣の血管を吸収糸で縛って摘出します。陰嚢の皮膚は縫合しませんが、通常数日のうちに閉鎖します。

ネコちゃんの年齢や手術後の様子にもよりますが、基本的には避妊手術も去勢手術も日帰り(17時〜18時頃のお迎え)となります。

生体内に糸を残さない手術方法

近年、手術用の糸に関連した疾患に対して知見が広まってきています。それが縫合糸肉芽腫(縫合糸反応性肉芽腫、術後異物肉芽腫)です。

名前の通り、手術に用いた糸に対して身体が反応してしまうために起こります。縫合糸肉芽腫の発生部位としては、手術部位に発症することがほとんどであり、例えば、去勢手術では鼠径部、避妊手術では卵巣や子宮断端に発症します。症状は場所によりけりですが、皮膚や皮下組織が赤く腫れてきたり、潰瘍になったり、漿液や膿汁が漏出することがあります。

特に縫合糸肉芽腫の発生が多く報告されているのが、非吸収糸である絹糸です。ある調査では、縫合糸肉芽腫と診断された症例の内、半数以上が絹糸を用いたものだったとの報告があります。

当院では、これらの予防として、縫合糸反応性疾患のリスクが最小限になる様な方法を用いて手術を行っています。

糸を使う手術法の代替法として、ソノサージという超音波メスも使用しています。

この方法では、糸を使用しないため、縫合糸肉芽腫の発生を防ぐことができ、手術直後も体内に異物が残りません。術後の炎症反応も糸を使用した手術と比較し軽減されるというデータも出ています。

飼い主様には、糸またはソノサージによる手術を選んでいただけます。

「避妊・去勢手術の質」を改めて考える

1. 避妊・去勢手術と他の手術の違い:健康な子を扱う

避妊・去勢手術は健康な犬、猫を手術します。他の手術は病気やケガなど治療のための手術です。健康な状態での手術ゆえに、この手術で健康な状態が損なわれたり、調子が悪くならないよう細心の注意が必要だということです。当たり前のことですが、ここをないがしろにすると、術後に影響がでてきます。

  
    

2. 短時間で手術が実施できるための技術

当院の獣医師は年間多くの避妊・去勢手術をしています。それは手術数だけをこなすのではなく、常に質の向上を考えています。院長の私をはじめ、先輩医師からの技術指導、獣医師同士の情報交換など、避妊・去勢手術のあるべき姿を追い、犬・猫の負担を軽減できるよう、短時間で確実な手術のための技術を習得しています。

  

3. 避妊・去勢手術での使用する糸へのこだわり

手術で使用する糸を大まかに分類すると、吸収糸、非吸収糸に分けられます。 吸収糸というのは言葉の通り、時間の経過によって体内に吸収されるものを言います。これは半年ほどで生体に吸収される糸であり、糸に対する生体の反応もほとんど問題にならないため、当院では避妊手術・去勢手術時に血管を止血する際には体内に糸が残らないよう、ソノサージ®、バイクランプ®という止血切断専用の機械を用いて止血し、縫合が必要な腹壁などの閉創には吸収糸を使用しております。(飼い主様には、糸またはそのサージによる手術を選んでいただけます)吸収糸は非吸収糸に比べて、高価です。ただ、安全・安心医療(※)や犬・猫への負担を考えれば、吸収糸を利用しなくてはいけないと考えています。

※手術用の糸に関連した疾患「縫合糸反応性肉芽腫」(術後異物肉芽腫)