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2003年07月01日

(論文)犬の後頭蓋窩嚢胞性疾患(後頭蓋クモ膜嚢胞)の1手術例

犬の後頭蓋窩嚢胞性疾患(後頭蓋クモ膜嚢胞)の1手術例

著者名:藤井康一、宗像俊太郎、渡邉俊文、陰山敏昭、茅沼秀樹
学術雑誌名:獣医麻酔外科誌 Vol.34,No.1,7-12
発刊年月:2003年
獣医麻酔外科学会:優秀論文賞

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1、後頭蓋窩嚢胞性疾患とは?
後頭蓋窩嚢胞性疾患は人医学領域では小脳、大四脳室の菱脳からの形成過程の障害に由来する一連の奇形と考えられ、Dandy-Walker complex と後頭蓋窩クモ膜嚢胞の大きく2 つに分類されている。 クモ膜嚢胞は良性、非腫瘍性の嚢胞で頭蓋内あるいは脊柱管内にみられる実質外占拠性病変と定義されており、外傷、感染、炎症などから二次的に発生するものもあるが、そのほとんどがクモ膜の発生異常により形成される先天的奇形と考えられている。

獣医学領域においては著者らが調べた限りでは後頭蓋窩嚢胞性疾患の発生の報告は認められていない。

2、藤井動物病院のオリジナルの考案
頭部の振戦、全身性痙攣などの脳神経症状を呈する症例に対し、MRI 検査を行い後頭蓋窩クモ膜嚢胞と暫定診断し、開頭手術を行った。

3、本研究の経過
食欲不振、頭部の振戦、体が揺れるという主訴で来院した10歳齢、避妊済の雌、体重17.2kg の雑種犬に対してMRI検査を行ったところ、嚢胞を伴った小脳病変(後頭蓋窩嚢胞性疾患)が認められた。後頭骨に穴を開け、嚢胞-腹腔シャント手術を施したところ、臨床的回復が観察された。

4、本研究の成果
術後1ヶ月のMRI検査で、嚢胞の縮小が認められた。
手術から2年後のMRI 検査において、病変の振興は認められなかった。
術後2年間にわたり順調な経過をたどり、良好なQOL が得られた。

5、本研究の考察
近年CT、MRI 等の画像診断機器の発達により、非侵襲的かつ詳細に体内を観察できるようなった。 なかでも中枢神経の疾患の診断に威力を発揮している。その結果、これまで診断が困難で、治療をあきらめられていた疾患も確認できるようになり、開頭による手術の可能性も検討することが出来るようになった。

今回MRI検査で小脳病変(後頭蓋窩嚢胞性疾患)が認められた症例に対して、嚢胞ー腹腔シャント手術を施すことにより、良好な結果が得られた。今後CT,MRIの小動物臨床への普及に伴い、より多くの症例で高いQOLが得られることが望まれる。


 

ひとこと
この症例が論文になったのは、症例があまりにも珍しかったこと、また飼い主さんがこれら高額な手術や検査を望まれたこと、そして大学の先生方の協力により成功することができた症例です。腫瘍などと違い、手術後の経過はかなり良く、やって良かった手術の一つだと思います。