前十字靭帯断裂

前十字靱帯断裂の解説

前十字靱帯とは、膝関節を構成する靭帯の一つです。 この靭帯は、脛骨の前方への突出、内側への回転を抑制しています。この靭帯が部分的もしくは完全に切れてしまった状態が前十字靱帯断裂です。前十字靱帯断裂は、犬では一般的な整形外科疾患の一つであり、関節の不安定性により痛み・関節炎を生じることがあります。加齢性および変性性変化が生じた結果、わずかな外力のみで生じてしまうことが多いと言われています。

前十字靭帯とは

前十字靭帯は膝の中に存在する靭帯で、太ももの骨(大腿骨)と、すねの骨(脛骨)を繋ぐ役割を持ちます。膝の中には前十字靭帯と後十字靭帯の2つがあり、この2つを合わせて十字靱帯と呼びますが、症状が最も強く出るのは前十字靭帯が断裂した時のみです。前十字靭帯が切れてしまうことで足に力が入らなくなり、いつものように歩けなくなります。

この状態のまま放っておくと、膝関節全体へのダメージを与えてしまい、治療をしてもうまく治療効果が得られないことがあります。また片側の前十字靱帯を断裂した犬の多くは、反対側の断裂を生じることも多く、歩けなくなってしまうこともあるので早期治療が重要となります。

靭帯は部分的な小さな損傷を繰り返し、最終的に完全断裂へと移行します。部分的に損傷している場合、放置していくと時間の経過に伴ってどんどん関節炎が進行していきます。完全断裂では膝関節に重度の関節炎が生じるだけでなく、痛みを伴うことで3本足にて歩くようになります。またその状態で反対側の足に負荷をかけ続けると、反対側の前十字靭帯も断裂してしまい、起立する事自体が困難になってしまいます。(図1)

図1:前十字靭帯は大腿骨(上側)と脛骨

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左図:正常な前十字靭帯の走行

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右図:前十字靭帯断裂時の様子

前十字靭帯断裂が起こる理由

前十字靭帯断裂が生じる要因は大きく分けて、外傷あるいは加齢性変化による2つに大別されます。外傷による前十字靭帯断裂は、交通事故やスポーツ競技など非常に強い力が急激に膝関節にかかりことで発生します。人では交通事故やスポーツ時などの外傷に起因して損傷する場合が多いとされていますが、動物の場合は外傷による前十字靭帯の断裂は稀であるとされています。

加齢性変化による前十字靭帯の断裂は、加齢に伴い徐々に靭帯の構造に変化が生じ、少しずつ弱くなっていくことを指します。犬ではこの変性による断裂が最も多く、高齢になればなるほど注意が必要です。前十字靭帯の変性が進行すると、靭帯は十分な強度を維持できなくなり、段差を飛び降りることやジャンプした後など普段の運動でも簡単に靭帯の断裂が生じます。前十字靭帯断裂の原因の多くはこの加齢性変化による靭帯強度の低下であり、チワワなどの小型犬からラブラドールレトリーバーなどの大型犬まで、幅広い犬種で起こります。

症状・徴候

前十字靭帯断裂時の症状は、前十字靭帯の損傷程度や半月板損傷の有無によって重症度は変わってきます。初期段階であれば、動き出しが鈍いことや足を引きずったり、かばうことが多く見られます。症状が進行してくるにつれて、足を着くと痛がるようになり、足をケンケンした状態で歩くようになります。

なお、一時的にこれらの症状が出たにも関わらず、しばらくすると通常に戻るというケースも見られます。しかし、一度損傷した靭帯は修復されることなく、軟骨や半月板を痛めることに繋がり、症状の悪化を引き起こすので、治療は初期の段階で実施することをお勧めします。

  • 跛行
  • 後ろ足の挙上
  • 運動後の後ろ足の硬直
  • 運動をいやがる
  • 関節の痛み(触った時や動かした時など)
  • 関節の腫れ
  • 歩行時のクリック音
  • 座った時に後ろ足を投げ出す
症状・徴候

診断方法について

前十字靭帯断裂の診断は、関節を触診検査することからはじまります。触診では前十字断裂に伴う脛骨の前方への引き出しがないか、脛骨前方引き出し試験および脛骨圧迫試験をおこない、膝関節の安定性を確認します(図2)。この触診に加えて、レントゲン検査にて大腿骨と脛骨の関係性ならびに前十字靭帯損傷時に確認される膝関節内に存在する脂肪の変位像(ファットパットサイン)を確認します。

図2:前十字靭帯断裂を確認する試験

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左図:脛骨前方引き出し試験

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右図:脛骨圧迫試験

図3:正常と前十字靭帯断裂時のX線写真の比較

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左図:正常な膝関節のレントゲン画像

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右図:前十字靭帯断裂時のレントゲン画像
正常と比較して脛骨が前方へと移動していることがわかります

診断方法について

治療方法について

前十字靱帯断裂の治療の目的は、痛みからの解放・後ろ足の機能の改善・関節炎の進行を抑えることです。これらを達成するために、様々な治療方法の中から動物の状態(犬種、年齢、体重、活動性など)に適した治療法を選択します。当院では、それぞれの動物に最適な治療法を提案できるよう、設備・機材を揃えています。

手術を行う場合、犬の年齢や関節の状態、持病の有無などによって方法は様々です。

手術方法には大きくわけて2つの種類があります。1つ目の方法は、人工靭帯を関節外に通し、失われた靭帯の機能の代替を目的とするものです。これは関節の外側から靭帯の役割を再建しているので、膝関節が安定化するのに時間がかかることがあります。もう1つは脛骨を切り、大腿骨に対する角度を調整することで膝関節全体の安定化を目的とするものです。以前までは人工靭帯を通す方法が多く行われていましたが、術後に長期間の安静が必要となる点や人工靭帯に使用している糸がゆるんでくることがあります。

そのため、小動物整形外科において現在では脛の骨を変形させ、膝関節全体の安定化を目指す方法(TPLO法)が主流となってきております。TPLO法は、人工靭帯を使用する方法と比較して、足の機能回復が早いことから、安静にすべき期間が短く、手術成績も良好です。

保存療法

10kg以下の小型犬では、外科的な治療を行わなくても、内科的な保存的治療(非ステロイド性抗炎症剤の内服や、体重の減量)により、症状の改善・十分な機能の回復が得られることがありますが、小型犬でも痛みが取れない場合や、中・大型犬では通常外科的治療が必要となります。

保存療法はいわば現状維持を目指す方法であり、実際は関節へのダメージが蓄積され、関節炎の進行を引き起こします。保存療法は、以下の対策が必要となります。

  • ケージレスト(狭いスペースでの管理)
  • 運動制限(散歩などは治療が完了するまでは行けません)
  • 鎮痛剤の投与(痛み止め)
  • 自宅の環境の整備(滑り止めマットの購入などフローリングを避ける、階段の昇降がないようにするなど)
  • 体重の管理(体重の増加は関節の負担を増加させます)
  • サポーターなどの装具の着用(状況によっては、膝関節をサポーターによって安定化させたほうがいい場合があります。

このように前十字靭帯は断裂すると、明確なQOLの低下を引き起こします。また、放っておくと関節炎の進行により治療を行なったとしても、後遺症が残ることがありますので異常があった場合にはお早めにご相談ください。

図4:鎮痛剤の種類

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図5:軟骨保護成分配合のサプリメント

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外科的治療

現在、前十字靱帯断裂の治療に行われている主流な手術は以下の方法です。触診や、レントゲン所見に基づき個々の動物に適した手術方法を選択しています。当院では中型、大型犬ではTTAをメインに、小型犬ではLateral Suture法を行っています。

飼い主様へのメッセージ

             

前十字靭帯の断裂は、犬の歩く、走る、跳ねるなどの運動を制限してしまい、苦痛を伴う靭帯損傷です。しっかりとした治療を施さないと、歩き方がおかしくなり、関節炎の発症や早期の反対側の足の靭帯損傷に繋がります。適切な方法で適切に治療することで、歩行、運動なども回復する子が多いですので早めの決断をしてください。その中でもTPLO法、TTA法が関節の滑りを抑えるには最良の方法です。しっかりと説明を聞いていただき、手術の違いを理解いただきたいと思います。

飼い主様へのメッセージ