前十字靭帯断裂の手術方法

1.TPLO

『TPLO』は、犬の前十字靭帯断裂における最新の手術法の一つです。
この手法は故Dr.Barclay Slocum(世界的に有名な獣医外科の先駆者)によって考案されました。前十字靭帯には脛骨(下腿骨)の前方への転移と内旋を抑制する働きがあり、この手術法では膝関節の安定を得るために膝関節の力学的構造を変化させます。

TPLOは脛骨近位関節面付近の骨切りを行なって脛骨に角度をつけることにより、前方への脛骨のすべり(犬の十字靭帯にかかるストレスの原因の一つ)を除去することができます。 つまりTPLO手術の意図は、脛骨の前方への推進を後十字靭帯で制御できる角度に高平部の角度を矯正し、膝関節の活動的制動を得ることです。他の前十字靭帯断裂の手術では十字靭帯の機能的な欠損に対してワイヤーや他の靭帯などで補おうと試みますが、TPLOでは膝関節の靭帯の機能的欠損に対して安定をもたらすことができます。

また、TPLOは前十字靭帯の完全または部分断裂の治療法として有効であり、活発に運動ができるようになるまでの期間を従来の手術法よりも短縮させ、関節内の変化を最小限に抑えることができます。特に、長期のリハビリテーションや術後管理が困難な大型で活動的な犬の治療法として最適です。

TPLO

TPLO模式図

2.TTA 脛骨粗面前方転移術

TTAは、犬の前十字靭帯断裂に対する新しい手術方法です。
前十字靭帯の切れた犬では脛骨が前方に変位します。TTAは脛骨粗面部の骨切りを行い、専用のインプラントを装着することで、脛骨粗面を前方に固定する手術方法です。これにより、立位での地面からのベクトルと膝蓋靭帯が平行になることで、膝関節の力学的な安定化が図られます。 手術後、比較的早く歩行が可能となることから、現在犬の前十字靭帯断裂の手術としてTPLOと共に主流となっています。

TTA 脛骨粗面前方転移術
TTA 脛骨粗面前方転移術
TTA 脛骨粗面前方転移術
TTA 脛骨粗面前方転移術

3.Lateral Suture 前十字靭帯断裂を整復する治療法

Lateral suture法とは、前十字靭帯断裂を整復する治療法の一つです。
この方法は、断裂した前十字靭帯の機能をナイロンテグスなどを用い代替する方法です。 大腿骨遠位外側の尾側面にある外側腓腹筋種子骨という小さな骨にナイロンテグスを通す方法と、大腿骨遠位外側に金属のインプラントを打ち込み、ナイロンテグスを通す方法があります。ナイロンテグスは、脛骨頭側面を通しきつく結ばれます。これにより、脛骨の前方への突出を制約します。 ナイロンテグスは、数ヶ月で緩んだり切れてしまいますが、それまでの間に関節が安定化することで機能の回復が得られます。 Lateral suture法は、主に小型犬や体重の軽い犬に適応されることが多い方法です。

Lateral Suture 前十字靭帯断裂を整復する治療法

4.Tight Rope 前十字靭帯断裂を整復する手術法

Tight Rope法とは、前十字靭帯断裂を整復する手術法の一つです。
この方法は、他の手術法と比較し、低侵襲で行うことが可能です。 大腿骨遠位・脛骨近位にドリルで穴を開け、Tight Ropeと呼ばれる人工繊維を通し固定します。これにより、断裂した前十字靭帯の機能を代替し、膝関節を安定化させ、脛骨の前方への突出を防ぐことができます。この方法は、大型犬でも適応することが可能です。

Tight Rope 前十字靭帯断裂を整復する手術法