腫瘍の治療方法

腫瘍の治療

腫瘍の治療について早期発見が大事なのは今まで話をしてきたとおりです。では、腫瘍が発見されてから、どのような治療が考えられるのでしょうか?当院では下記のように考え、特に初期段階においては根治治療、外科手術を重要と考え、その治療技術に力を注いでいます。

治療の種類

主に3つの治療が考えられます。
腫瘍の種類、動物の状態によって治療の目的が変わってきます。

A.根治治療

完全に腫瘍を生体から消滅させて、再発、転移が起こらない様にすることを目的とした治療です。根治治療は外科手術が基本です。悪性腫瘍であっても、早期治療により根治可能な場合も多くあります。

  1. 外科
  2. 外科+化学療法
  3. 外科+放射線など

B.維持治療

維持治療は腫瘍を進行させないための治療であり、QOL(生活の質)を維持するための治療です。すでに転移が始まっていたり、手術を実施したものの取り切ることができなかった場合や、動物の年齢や体力、腫瘍の発生部位が問題で外科手術自体ができない場合に行います。

主に以下の3つの治療を組み合わせて実施します。

  1. 外科
  2. 化学療法(放射線治療)
  3. 免疫療法

C.緩和治療

末期の段階にある主に悪性腫瘍に対して、痛みや苦痛の緩和を目的として治療を行い、QOLの改善が目的です。

  1. 免疫療法
  2. 鎮痛剤(麻薬を含む)や点滴治療

外科治療

外科的切除

外科手術により腫瘍を切除することが腫瘍根治へ最も近い方法となります。

  • 外科手術は腫瘍がまだ小さい早期に実施することで根治できる可能性が高い
  • 取りきれないほど大きな腫瘍では、できるだけ多くの腫瘍組織を取り除くことで、併用する化学療法(抗癌剤)の効果を高める
外科的切除

早期の外科手術が重要な理由

腫瘍は1つの細胞から1cm3なるには30回以上の細胞分裂を繰り返さないといけませんが、この1cm3から全身に広がるには、10回未満の細胞分裂で広がります。これはどういうことかというと、肉眼で見えるようになったり、画像診断(レントゲン、超音波、CTなど)で見えるようになるという事はすでに全身に広がる3/4以上の過程が過ぎているということです。

早期の外科手術が重要な理由

抗がん剤の効果について

雑草がすでにいっぱいの広場(腫瘍の増殖が進んだ状態)では、それをただ刈り込むだけではまたすぐに生えてきて(手術では取りきれない)、イタチごっこになってしまいます(すぐに再発や転移が起こる)。雑草はまずは根こそぎ取って(外科手術で大部分を切除し)、そこから土の中に取り残した根(肉眼では見えないが、脈管やリンパ管に浸潤した腫瘍)を除草剤でつぶしていく(抗癌剤)必要があります。

化学療法(抗癌剤)

化学療法とは?

化学療法剤はがんに対して有効な薬です。通常は血管の中に直接、または皮膚の下に注射したり、飲むものもあります。がん細胞はとても早く分裂して、増殖します。殆どの化学療法はその分裂する時に効果を発揮します。

化学療法の適応

a.化学療法単独で使用する
主にリンパ腫などで使用します。リンパ腫は身体をパトロールしている免疫細胞が腫瘍化した疾患であり、身体のどこにでも発生します。特に病変が多発している場合には手術で取り切れるようなものではないため、投与することで全身に効果がある抗がん剤治療が有効です。

b.他の治療(外科治療や放射線治療)の補助として使用する
外科手術で腫瘍を摘出したり、放射線治療で腫瘍を縮小させたとしても、悪性の場合には腫瘍が細胞レベルで体内に残存しており、治療後に再発や転移を起こすケースも珍しくありません。手術後に抗がん剤を投与することで目に見えない腫瘍細胞を攻撃し、治療後の再発や転移を防いだり、再発や転移までの期間を遅らせることが目的です。

化学療法の投与の仕方と必要期間

化学療法剤の殆どは静脈から投与を行う薬剤です。化学療法剤は一般に強い効力を持つ薬剤で体の正常な細胞にも作用するため、投与日には必ず血液検査をして、化学療法剤の投与に耐えられるコンディションであるかを確認します。薬剤によっては、補助的な点滴治療が必要になるものもあります。化学療法剤の投与日は、投与前後の状態をしっかりと把握し、適切な補助治療を実施するために病院にてお預かりにて治療を行っています。

化学療法で使用する薬剤や、投与の方法や間隔は腫瘍の種類や体の状態によって決定していきます。同じ種類の腫瘍であっても、体の状態によっては異なる薬剤を使用するケースもあります。化学療法が著効する悪性リンパ腫では、初期には1週間隔で治療を実施し、完全寛解(腫瘍が認められなるなる状態)まで持ち込むことができれば、2週間隔の治療となり、最終的に半年ほどの期間で一度治療を終了することもあります。固形癌やリンパ腫でも完全寛解まで持ち込めないケースでは、生涯を通して化学療法を行い、腫瘍と戦わないといけないこともあります。

化学療法終了後

化学療法が終了したあとは、腫瘍の再発や転移がおきていないか定期的にチェックをしていきます。
それは、最初の治療と同じように、再発であっても初期の段階から治療していくことが重要だからです。また、2回目の化学療法治療ができない場合でも、早めに発見して、なるべく動物の苦痛になるような症状を取り除いてあげることも大切です。

化学療法の副作用

化学療法は辛くて苦しいイメージがありますが、犬や猫では幸いなことに私達がイメージしているような重篤な副作用は比較的少ないのです。動物の場合には特に、治療をする目的としてQOLの維持や改善が非常に重要です。副作用が強く出る場合には、化学療法剤を副作用の少ないものに変更したり、副作用を抑えるための補助治療を行うなど、副作用を軽減する方法を探索していきます。それでも、副作用があまりにも強くQOLが著しく低下する場合には、化学療法自体の継続を断念しなければならないこともあります。化学療法剤投与後数日の食欲不振など、軽度な副作用はある程度覚悟しなければなりません。以下に代表的な副作用をあげてみます。

化学療法剤の中には細胞の分裂過程に作用するものがあります。これらは、分裂増殖の速い腫瘍細胞に効果を発揮しやすく、同時に分裂増殖の速い正常な細胞にも影響が出やすくなります。体の中で特に分裂増殖の速い組織である、骨髄や消化管がダメージを受けやすい場所です。

消化器の副作用

悪心、嘔吐、下痢、食欲不振などです。化学療法剤投与後数日の悪心や食欲不振を含めると、軽い消化器症状はある程度の子達が経験する事だと思います。大抵の場合にはそれほど問題になるほど強くはありません。骨髄抑制と一緒に起こった場合に消化管に感染を起こしたりすると重大な副作用となってしまうことがありますが、抗菌剤を使用するなどして予防的に防ぐことも可能です。

骨髄の副作用

骨髄では、赤血球や白血球、血小板など体を維持するのにとても大切な細胞が作られています。化学療法剤により特に細菌などから体を守っている白血球の減少が起こると、免疫力が下がり感染して敗血症になる可能性が出てきます。可能な限り敗血症になることがないように、継続して化学療法を実施している子では、毎回白血球や血小板が十分な数があるかを確認してから投与を行います。もし、これらの細胞に著しい減少があった場合には、細胞の数が十分な数に回復するまで、化学療法剤の投与を遅らせることになります。

脱毛

脱毛は人間では、よく知られている副作用ですが、動物では殆ど気付きません。抜け毛が多いかなと言う程度で済むことが殆どで、丸裸になる様なことはまずありません。

その他の副作用

起こりやすい副作用は投与する化学療法剤によって異なります。骨髄に対する障害が起こりやすいものもあれば、肝障害がでやすいものもあります。化学療法剤によっては、血管以外の場所(皮下組織)に漏れてしまうと、ひどい炎症により皮膚壊死が起こるものもあります。

当院ではそれぞれの薬剤の特性を十分理解した上で治療を実施しており、治療後の注意もしっかりとアドバイスいたします。

化学療法後のご家族の注意点

化学療法を行った後は動物の状態を観察することがとても大切です。当日はもちろんですが、数日後から副作用が起こってくることも多いです。薬剤によって後発する副作用が出る時期が異なりますので、薬剤毎に出やすい症状を把握しておくことが大切です。また、化学療法剤によっては、投与後の数日間の排泄物に代謝物が含まれるものもありますので、糞尿はなるべく直接触れないようにすることも大切です。暴露しても微量ですので、危険は多くありませんが、なるべく触らないように心がけましょう。

免疫療法(リンパ球移植免疫療法)

当院では「リンパ球活性化免疫療法」によるがん治療の補助療法が受けられます。
がん療法には、従来の大きな3本柱である外科療法・放射線療法・抗がん剤療法(化学療法)がありますが、近年注目を集めており、第4の柱となりうる療法が「免疫療法」です。この方法は、動物自身の血液細胞を使用するので、従来の方法で認められる副作用による苦痛を伴わず、生活の質( quality of life; QOL)の改善を高める補助療法として注目されています。動物においては、臨床の現場で研究・導入され始めてからまだ年月が浅い分野ですが、様々な効果の報告がなされています。

免疫療法の流れ

  • 採血を行います。清潔に採血する必要があるため、採血部位の毛を刈る必要があります。
  • 血液中のリンパ球(がんを攻撃してくれる細胞)を2週間程培養して増殖させます。
  • 2週間後、増やした細胞を30分~1時間かけて動物の体に点滴で戻します。
    理想としては、2週間に1度を6回(12週)行います。
    しかし、動物の状態、その他がん療法との併用状況、細胞の増え方など、お話合いの上で投与間隔や回数を決定します。

期待できる効果

相乗効果

他のがん療法との併用による相乗効果が期待できます。
外科療法、化学療法、放射線療法、漢方療法などの様々な治療法との併用で効果を上げている症例があります。

再発・進行の遅延

がんの進行状態によっては、体が弱りきっていたりがんの転移が生じている場合があり、外科療法や放射線療法などの治療法の選択が困難な場合がありますが、免疫療法後に転移巣が縮小したり、活発さが戻るなどの効果が3割程度の症例で確認されています。

QOL改善

がんが進行すると、痛みや貧血など辛い自覚症状が現れますが、免疫療法にはこのような苦痛を和らげる作用があります。体内にガンが残っていたとしても、通常の生活を送ることができるようになる場合もあります。食欲がなく体重の減少が認められる場合でも、療法後に食欲が戻り、体重が増加するような効果が期待できます。

副作用がほとんどない

自らのリンパ球を増殖して投与するため、拒絶反応など、副作用の心配がほとんどありません(まれに投与後に軽い発熱が認められる場合があります)。どのような段階のガンであっても、また、体の衰弱が激しくても、長期にわたって安心して療法を受けることができます。

支持療法

がんの進行が末期であり、がん治療をするには身体的に耐えられないような場合、認められる症状に対しておこなう療法です。

食事療法

低炭水化物、良質タンパク質、高脂肪食が適しています。処方食の中にはこれを満たすために作られた物が販売されています。

食餌

炭水化物

がんは主にブドウ糖を栄養源として成長します。そのブドウ糖は通常は炭水化物の摂取によって体内で作られます。そしてブドウ糖を乳酸に変えて、体内に乳酸を増やしてしまいます。動物はこの乳酸を一生懸命に利用可能なブドウ糖にまた戻します。そしてまたがんがこのブドウ糖を・・・。この様に炭水化物を摂取する事は、がんにとっては有効でも動物にとっては良くない結果を生みます。炭水化物の多い食餌はご飯、パスタ、パン、芋類があります。とくに砂糖、穀類、また、砂糖と穀類を使ったお菓子に多く含まれます。

蛋白質

がんも動物も、両方がタンパク質を必要とします。良質で生物学的利用能の高いタンパク質は、患者に対しても腫瘍に対しても有益となります。タンパク質(英語でプロテイン)は、肉類、魚介類、卵類、大豆製品、乳製品に多く含まれます。

脂質

がんの中にはエネルギー源として脂質を利用することが困難であり、反対に動物は、脂質を酸化させてエネルギーを得ることができます。これが高脂質食が推奨される主な理由です。高炭水化物食よりも高脂肪食のほうが、動物にとっては、有利となる可能性があると言うことです。ここでの脂質は特にオメガ3を指します。これが多く含まれるのは青魚の油です。サプリメントでもとれます。

サプリメント

サプリメントは治療薬と言うよりは、補助療法の一つです。これだけで効果が上がるという物ではありません。動物用にも沢山の物が今では販売されています。

免疫作用

免疫細胞の働きを高めてがん細胞を排除する
アガリクス、メシマコブ、アラビノキシラン、AHCC、D-フラクション、キチン・キトサン、亜鉛、ラクトフェリン

抗酸化作用

がん悪化の原因となる 活性酸素を除去
カロテノイド、ビタミンC、E、コエンザイムQ10、カテキン、フラボノイド、セレニウム、 イチョウ葉エキス

新生血管阻害作用

がんを養う血管の新生を抑えて成長を止める
サメ軟骨、ウコン

アポトーシス誘導作用

がん細胞が自ら死滅する作用を促進する
フコイダン、プロポリス、ω3不飽和脂肪酸(DHA,EPA)