Fujii Times(ブログ)
2019年06月06日
「命ってなに?」「人生、生きている意味は?」「意味があるとすれば、それは何?」。
ドリアン助川さんは、20代後半より放送作家として活躍。30代でパンクロックバンドを結成、同時期に中高生向け相談番組のラジオパーソナリティを務めていた頃、その公開録音の場で、いじめなど悩んでいる彼らに、先のような問いかけをしました。
その際の答えは全員が(ほぼ即答で)
「私たちは、社会の役に立つために生まれてきた」
「社会の役に立たないのであれば、生きている意味がない」
と、いったものでした。
その答えに、ドリアン助川さんは、違和感を覚えます。その背景に、ハンセン病患者のみなさんの存在がありました。1996年4月に「らい予防法」がようやく廃止されましたが、病気が治っているのに、療養所から出てくることができない、社会に出てくることができない皆さんに対してこの考え方はあまりにも一方的で暴力的だと感じたのです。
FVMC(藤井動物病院グループ)研修風景
その後、ドリアン助川さんは、パンクロックバンドを解散、ラジオのパーソナリティも辞め、ニューヨークに滞在。帰国(2002年)後は、小説の執筆や音楽活動も続けていましたが、ハンセン病のことだけは書けないでいました。そんな状況がしばらく続いたようですが、2009年に大きな転機を迎えます。
とあるNPO法人に呼ばれ、唄を披露。その際、偶然にも多磨全生園で暮らした元ハンセン病患者さんと出会うことができたのです。ハンセン病のことを知ったまま、ずっと書くことができなかったドリアン助川さん。この出会いを機にハンセン病への想いが一気に強まります。
そして、施設に足を運んだこと。元ハンセン病患者のみなさんと触れ合ったこと。さらには、直接、話を聞くことができたことが大きなきっかけとなり、2013年の著書「あん」、2015年の映画化へとつながっていきます。
ただ、出版化されるまでの道のりも決して平たんではなかった。3年間で11回の変更を重ね、12回目でようやくOKになるも、突然、出版できなくなるという困難もあったようです。それでも、出版にこぎつけ、その後、河瀬直美監督や樹木希林さんとの感動的な出会いがあり、日仏独合作での映画化。その想いは世界の多くの人を巻き込み、強く伝播していきます。
カンヌ国際映画祭では元ハンセン病患者のご夫妻も同席。一緒にレッドカーペットを歩く夢も叶えます。上映後、拍手が鳴り止まず、初日に異例ともいえる40カ国以上での上映がその場で決まるほどの評価だったようです。
ドリアン助川さんの話はその後も続きます。ハンセン病への偏見、差別の凄まじさ、出会った患者さんの人生、生き方、そしてフランスでお子さんを若くして亡くしたお母さんのことなど、どれも深く、考えさせられることばかりでした。
そして最後に著書「あん」の最後、主人公である徳江さんの手紙をドリアン助川さんが読み上げてくれました。
手紙の詳細は、著書で確かめていただきたいですが、最も心に残ったのはこの一説です。
「私たちはこの世を観るために、聞くために、生まれてきた。この世はただそれだけを望んでいた。だとすれば、教師になれずとも、勤め人になれずとも、この世に生まれてきた意味はある。
その言葉を聞いて、なんて深い言葉だろうと感じました。徳江さんが言うように、この世に生まれてこなければ、目の前の美しい月も、木々のざわめきも感じることはできない=何も存在し得ないということであり、その存在があるのは、自分たちに生があるからなのです。
そう考えたならば、小さくして心臓病で亡くなった赤ちゃんも、10代で亡くなってしまったお子さんも、元ハンセン病患者のみなさんも、生まれてきた、生きてきた意味を見出すことができます。
同時に
「私たちは、社会の役に立つために生まれてきた」
「社会の役に立たないのであれば、生きている意味がない」
それがあまりにも一方的な見方だと考えることができます。
そして、生を受けこの世を認識したときに(この世が)生まれ、亡くなるときにこの世がなくなる。つまり本当のビックバンとはみんなが生まれた時だというドリアン助川さんの話を聞いたとき、正に生命の根源を感じ取ることができました。
「単独で存在し得るものはない。すべては関係性のなかにある。分断と虚無。」
自分のことだけを考えては、「自分探し」という迷路にはまり込んでしまいます。自分だけを見続けていると苦しく、何も見えてこない。自分のことだけを考えるのではなく、他者との関係性を大事に生きる。その大切さを説いてくれました。
ドリアン助川さんの話を聞いて、私自身、力みが抜け、生きる喜びを素直に感じとることができました。生きることそれ自体に意味がある。そう思うことができて良かったです。そして、様々な方々との様々な関係性、つながりがあったからこそ、この講演を聞くことができたのだと感謝の気持ちが持てました。
ドリアン助川さん、貴重な話を本当にありがとうございました。
ドリアン助川さんとFVMC(藤井動物病院グループ)スタッフ