股関節脱臼
股関節脱臼の解説
股関節脱臼は、交通事故や落下、転倒などにより、骨盤と大腿骨を繋ぐ股関節が外れる状態を指します。股関節形成不全など元々股関節に異常がある場合やホルモン病などの基礎疾患がある場合、日常生活の中で起こる小さな衝撃により突然脱臼してしまう事もあります。脱臼した状態が継続すると非常に強い痛みが生じるため、早期に治療を行うことをお勧めします。
股関節脱臼の症状
股関節を形成する構造である大腿骨の大腿骨頭が、骨盤から外れる疾患のことを指します。基本的に股関節は、球状関節というボールとカップの関係を保つことで安定かつ潤滑に動くことが可能です。
このボール部分である大腿骨がカップ部分である骨盤から外れることで後ろ足に体重がかけられなくなり、足を上げてしまうようになります。股関節を脱臼すると、大きく分けて2通りの方向に脱臼します。
1つ目の脱臼の方向は頭背側脱臼といい、骨盤よりも上の方向に脱臼することです (図1)。この方向の脱臼は、股関節脱臼の大半を占め、手術によって治療する必要があります。
2つめの方向は腹側脱臼といい、骨盤よりも下の方向に脱臼することを指します (図1)。この方向の脱臼は、比較的珍しく、特殊な状況での発症を除けば、通常は脱臼しないと言われています。
脱臼の方向性にもよりますが特徴的な立ち方をすることが多く、視診や触診のみで股関節脱臼がわかることも多いです。脱臼した状態を放っておくと、足を使用しないことでどんどん筋肉がやせ細っていき、治療を行なったとしても機能回復にはかなり時間がかかります。
図1:股関節脱臼の脱臼方向の違い
正常な股関節は寛骨臼の中に大腿骨がしっかりとおさまっていますが、大きな外力が加わることで頭背側あるいは腹側に脱臼します。
診断
触診およびレントゲン検査を使用します。前述したような特徴的な立ち方をするため、視診や触診だけで股関節脱臼を疑うことも可能です。レントゲン検査では、どの方向に股関節が脱臼しているかの方向性やもともと脱臼しやすくなっていた背景が存在しないかどうかの構造確認、関節炎所見があるかどうかも評価します。
一般的によくみられる頭背側脱臼の場合は、足先を内側にむけるような特徴的な起立姿勢を呈します (図2)。一方で腹側脱臼の場合は、突然足を上げるような症状が出たと思ったら、病院に到着すると元に戻っているなんてこともあります。
これは股関節の体重のかかる位置による影響で、外れたりはまったりを繰り返すことがあるため、来院時にはきちんと股関節がはまっている場合には、診断がつかないこともあります。これらの鑑別は適切な触診やX線検査に加えて、問診内容が診断の鍵となることがあります (図3)。
図2:股関節頭背側脱臼時の特徴的な姿勢
図3:診断を行うためのX線写真
左側は頭背側脱臼を示しています。また、右側は腹側脱臼を示しています。
図1のイラストを理解するとレントゲン画像所見を見ただけで脱臼の方向性が簡単に理解できます。
治療・リスク
非観血的整復と観血的整復の2種類の治療法があります。
手術を行わず脱臼した股関節を元の位置に戻す非観血的整復では、関節をはめ、包帯を巻き、再び脱臼しないようにします。ただしこの方法は、あくまで救済措置であり、一時的に脱臼症状は収まるものの、再び脱臼する確率は非常に高いです。再脱臼した場合は、手術を行う必要があります。
手術を行う観血的方法では、インプラントにて関節を安定化させる方法と大腿骨頭切除関節形成術で関節を安定化する方法の2種類があります。インプラントにて関節を安定化させる方法は、インプラントの破綻により一定の割合で再脱臼が生じることがありますが、大腿骨頭切除関節形成術では再脱臼の心配はありません。脱臼の方向性や全身状態、家での活動性など家庭環境にあった治療プランをご提案させていただきます。
図4:股関節脱臼の治療法
左はトグルピン法という股関節の整復手術です。インプラントを使用することで股関節が脱臼することを防ぎます。
中央はピンニング法という股関節の整復手術です。ピンを使用することで股関節が再脱臼することを防ぎます。ピンは関節が安定した後に抜きます。
右は大腿骨頭切除関節形成術で行なった股関節脱臼に対する救済措置です。
術後は、偽関節という関節様組織を形成し、まるで関節があるかのように稼働することが可能です。
飼い主様へのメッセージ
頭背側への股関節脱臼は手術による整復もしくは大腿骨の骨頭切除が行われます。これは犬のサイズにより、手術の選択肢が限られることもあります。腹側側の脱臼は整復と安静で、手術が無くても落ち着くことがありますが、脱臼は繰り返すことが多いです。どちらにしても股関節の脱臼はとても疼痛を伴うため早めの処置が必要です。当日もしくは翌日には手術をすることがより回復を早めます。
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