再生医療科の治療症例紹介

CASE 1 前胸部の腫瘤切除症例

柴犬 5歳 オス

症状

前胸部にしこりがあるとの主訴で来院される腫瘤は4cmを超え、中央部は大きく陥没壊死が認められた底部は固着が認められた

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検査

細胞診:悪性円形細胞腫瘍を疑う(軟部組織肉腫、肥満細胞腫、組織球性腫瘍など)手術前検査では、明らかな肺転移所見は認めず。多臓器への転移所見も認められなかった。

手術(前胸部腫瘤切除及び皮膚欠損部皮弁形成)

前胸部の腫瘤は底部の筋肉まで浸潤が認められたため、底部は筋肉を一部含めて切除し、側方は正常組織を含め切除を行なった。切除部位の組織欠損は大きく、周囲皮膚を寄せて縫合することが難しいため、左側乳腺部位の皮膚を切開し、皮弁形成を行なった。その後、術部からの排液による皮膚の定着の悪化を防ぐため、ドレーンチューブを挿入し、筋肉まで切除した領域は非吸収性縫合糸を用い筋肉と皮膚を複数箇所縫合を行なった。

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術前

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術後

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摘出した腫瘍組織

術後

術後は静脈点滴治療、抗生物質、鎮痛の治療を実施。食欲良好、術創からの排液も少ないため術後4日目に退院とした。

病理診断

免疫染色まで実施した結果、最も可能性が高いのはT細胞型リンパ腫との結果であった。手術部位の切除端に腫瘍は認められず、切除しきれているという診断。

その後の経過

前胸部の手術部位は広範囲切除のため、創の癒合に時間がかかったが経過良好である。疑われる腫瘍の性質から局所再発、全身的な転移を起こしていく可能性が考えられるため、定期的な転移評価、及び抗癌剤による追加治療を提案した。

CASE 2 皮膚肥満細胞切除の症例

犬 ジャックラッセルテリア 9歳 オス

症状

腰部に2cm×1.5cmほどの皮下腫瘤を認めた

検査

細胞診検査

肥満細胞が多量に検出された

転移評価

体表で触診可能なリンパ節の腫脹は認められず、末梢血中への肥満細胞の出現は認められず、胸部レントゲン検査:明らかな転移所見は認めず、超音波検査:肝臓や脾臓の腫大はなく、腰下リンパ節の腫脹も認めず

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切除前:黒丸は触診可能な腫瘤の辺縁で印をつけたもの

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切除後

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縫合後

手術

病変から側方は最低1.5cmの正常組織を含め、底部は筋膜を含めるようにして腫瘍を切除した。

術後

術後の止血に問題がなかったため、術創感染予防のための抗生物質及び肥満細胞腫の術後処方としてステロイド剤を処方し、当日退院とした。

病理診断

皮膚肥満細胞腫 グレード2/低グレード 切除辺縁に腫瘍細胞は認めず切除されている一部でリンパ管侵襲を認める との評価であったC-kit遺伝子変異検査では、エクソン8・9・11いずれにおいても陰性であった。

その後の経過

広範囲切除かつ筋膜まで切除を実施したため、術後2週間目くらいより皮下漿液貯留が認められるなど組織定着に時間を要したが、手術後3週目に予定通り抜糸を実施した。腫瘍は一部リンパ管侵襲を認めるとの評価であったため、追加治療として化学療法を実施することとなった。

CASE 3 総胆管不完全閉塞による肝障害の症例

猫 雑種 10歳 オス

症状

食べる量が少なくなり痩せてきた、1週間ほど毎日嘔吐している

検査

血液検査

肝臓酵素(GPT)の著しい上昇、軽度の黄疸、炎症反応(SAA)の上昇を認めた

超音波検査

胆嚢内にはボール状に塊になった胆泥を認める、総胆管内にも小さな塊状の胆泥が確認される

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ボール状の塊の胆泥

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総胆管内にも胆泥の塊が観察される

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総胆管十二指腸の開口部付近に認められた胆泥の塊

一般身体所見、レントゲンや超音波検査にて胆道以外には特別な異常を確認できないため、胆泥による総胆管の不完全閉塞が原因となって肝臓障害を起こしている可能性を疑った。

手術

まず、原因を明らかにする目的で開腹を行った。総胆管の十二指腸開口部付近には触診で固く触れる胆泥が確認され、総胆管の拡張が観察された。胆嚢内のボール状の塊のように観察された胆泥は固く触知された。これらの所見と血液検査結果、臨床症状からは胆嚢内容物(石灰化はしていないものの、胆石の予備軍と考えらえる)による総胆管の不完全閉塞が原因と考えられた。胆嚢内容物を一掃し総胆管を開通させ症状を改善しても、再び胆嚢内容物が塊になれば同様の症状を繰り返すと考えられため、胆嚢と十二指腸を吻合する手術を実施した。

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総胆管十二指腸の開口部付近に認められた胆泥の閉塞

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十二指腸と胆嚢を吻合

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十二指腸と胆嚢を吻合

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胆嚢内の内容物(指で強く押すと崩れる)

術後

手術3日後には肝臓数値や黄疸数値は低下傾向となり、5日目には退院とした。 退院後は食欲の改善も認められ、現在定期的な血液検査を行いながら術後経過を観察中体質改善として、利胆剤の使用は継続することとした。

CASE 4 回盲部腫瘤を認めた症例

犬 雑種 13歳 去勢オス

症状

嘔吐や食欲不振などの臨床症状は認めず。他院にて実施した健康診断にて回盲部の腫瘤病変が発見された。細胞診の検査では紡錘形細胞の集簇と急性化膿性炎症の所見が認められた。

検査

レントゲン検査

明らかな転移所見は認めず

超音波検査

回盲部に直径4cmほどの消化管腫瘤を認めた。一部に嚢胞状の所見を認める。病変は限局しており、そのほかの部位への転移所見などは画像上認めず

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手術

麻酔下にて腹部正中切開により開腹を行った。病変部は4cmほどの大きさで盲腸部位に限局しており、回腸から結腸部位の腸管閉塞は認めなかった。周囲は大網と呼ばれる消化管の膜が癒着しており、過去に炎症が起こったと思われた。まず、大網の癒着を剥がし、病変部周囲の血管走行を確認した後、消化管の切除範囲を決定し、その部位に血液を供給している血管を遮断。腫瘤は肉眼的には盲腸部に限局はしていたが、組織レベルでは周囲に浸潤している可能性もあるため、結腸の一部と回腸の一部を含めるように切除範囲を設定し切除を実施。切除後は、吸収性の縫合糸にて回腸と結腸を吻合。吻合後は吻合部からの内容物の漏れや内容物の通過に問題がないかを生理食塩水を注入して確認を行った。最後に腸間膜を縫合し、消化管の吻合部には大網を縫い付け終了とした。腹壁、皮下、皮内ともに吸収性縫合糸にて縫合を行い閉腹した。

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回盲部の腫瘤

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回腸と結腸を吻合しているところ

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吻合後

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摘出した腫瘤病変

術後

24時間後より給餌を開始し、食欲も十分に認められた。入院中は、抗生物質、鎮痛剤、点滴治療を実施し術後4日目に退院とした。

病理診断

消化管間質腫瘍(GIST)の診断 脈管浸潤は認めず、切除辺縁にも腫瘍細胞はなく、切除しきれているという評価

CASE 5 爪床悪性黒色腫の症例

ノーフォークテリア 13歳 去勢オス

症状

右前肢第3指の爪が腫脹し、一部割れて肉様組織が露出している

検査

細胞診

黒い色素を持つ細胞が多量に検出される

レントゲン検査

患趾の末節骨は先端部位にわずかに骨溶解像が確認された
胸部レントゲン検査では明らかな肺転移像は認められなかった悪性黒色腫の可能性が疑われたため早急に手術を実施することとした

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手術:右前肢第3趾断趾

患趾の直上を切開し、中手骨と基節骨の間の関節の位置にて断趾を行なった。

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術前

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術後

術後

術後は鎮痛と術部の感染予防のため抗生物質を使用し、当日退院とした。

病理診断

爪床悪性黒色腫 脈管侵襲はなく切除しきれているとの評価 手術時に実施した浅頸リンパ節(病変の所属リンパ節)の細胞診では明らかな転移所見を認めないという評価であった。

その後の経過

術後2週間で抜糸を実施し、術部の経過は良好である。病理診断では、転移率の高い悪性腫瘍が検出され今後の遠隔転移に注意が必要なため、定期的な転移評価を行うこととした。また、悪性黒色腫に対しては著効する化学療法はないため、転移を防ぐためにできる積極的治療として活性化リンパ球療法を提案した。

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