椎間板ヘルニア
胸腰部椎間板ヘルニアの解説
椎間板ヘルニアは、背骨の間にある椎間板というクッションが飛び出て、脊髄という大事な神経を圧迫し、麻痺を引き起こす疾患です。背中の痛みや足をうまく動かせずにふらつく、おしっこを普段している場所でできずに漏らしてしまうといった後ろ足の神経麻痺に関連した症状がでることが多いです。
神経麻痺の程度が軽度な場合は保存治療で徐々に改善していくこともありますが、神経麻痺の程度が重い場合には早期の外科的治療が必要となります。神経麻痺が起こってから治療を行うまでの間は早ければ早いほど回復が早いですので異常が出た場合には、早めの診察を受けましょう。
胸腰部椎間板ヘルニアとは
背骨と背骨の間にある椎間板というクッションが飛び出し、その直上にある脊髄を圧迫することで、神経麻痺を生じる疾患です。椎間板ヘルニアには大きく分けてハンセンⅠ型とハンセンⅡ型の2種類にわけられます。ハンセンⅠ型は髄核という衝撃を吸収するゼリー状の構造が突出することで生じる急性の神経麻痺です。
これは予兆なく突然の麻痺や痛みが生じることが多く、昨日まで普通に歩いていたのに、気づいたら座り込んだまま歩けなくなっていたなどの状況が多いです。一方でハンセンⅡ型は、椎間板の外側の線維輪というクッション素材が徐々に肥厚することで脊髄を圧迫する病態です。これは、数カ月から数年単位で徐々に麻痺が進行してくる経過をとります。すなわち急性に発症するハンセンI型と、ゆっくりと進行してくるハンセンII型では病態が全く異なるものになります。
動物ではハンセンⅠ型がものすごく多く、軟骨異栄養犬種といわれる特定の犬種に多く見られます。軟骨異栄養犬種とは椎間板を構成する軟骨の成分に影響が生じ、水分が徐々になくなっていくことで、劣化していく特定の犬種をさします。これらの軟骨異栄養犬種は他の犬種と比較して椎間板ヘルニアが起こりやすくなるとされています。
軟骨異栄養犬種の代表的な犬種としてミニチュア・ダックスフンドや、ウェルシュ・コーギー、ビーグル、シー・ズー、ペキニーズ、フレンチ・ブルドッグ、トイ・プードルなどが挙げられます。
胸腰部椎間板ヘルニアの原因
ハンセンI型(図2)
髄核の水分がなくなることで固く変性し、クッション素材である線維輪を突き破ることで、脊髄神経を圧迫します。髄核の水分がなくなると椎間板の弾力性がなくなり、衝撃を吸収することができなくなります。そのため日常生活の小さな動きによって変性した髄核が徐々に線維輪に細かいヒビを作成し、硬く変性した髄核が大きな塊として飛び出し、脊髄を圧迫します。前述した軟骨異栄養性犬種は、椎間板の中の髄核が1〜2歳から変性しはじめ、脱水することで、だんだんと硬くなる犬種を指します。
このようにハンセンI型は先天的な原因により変性が生じるため、根本的な予防方法はありません。しかし、椎間板への負荷を軽減することで進行を遅くすることができる可能性があります。ご自宅で簡単にできることとして、フローリングなどの滑る床をなくすことや肥満の予防が挙げられます。
ハンセンII型(図3)
ハンセンII型は、加齢に伴って椎間板が変性し、クッション素材である線維輪が膨らむことで、脊髄を圧迫します。このタイプは人の椎間板ヘルニアに類似しており、前述した軟骨異栄養症以外の犬に発生することが多いです。成犬から老犬に多く認められ、慢性的に経過するため時間をかけて進行していく事が多いとされています。ハンセンⅡ型は慢性進行性の病態を示すため、安静にしていたとしても症状は進行していくことが特徴となります。
図2と図3:HansenI型とHansenII型の椎間板ヘルニア
図2はHansenI型の病態を示しており、明確な髄核の突出が脊髄を圧迫している。
図3はHansenII型の病態を示しており、線維輪の肥厚が脊髄を圧迫している。
椎間板ヘルニアの症状
軽度の椎間板ヘルニアでは痛みや違和感が生じるのみで、神経麻痺は生じないことがほとんどです。痛みや違和感などの症状は、日常の動きを確認することで判断することが多く、部屋の隅で丸まっている・腰を丸めて歩く・動かなくなるなどの症状が認められます。神経麻痺が進行すると、前足だけで這うように歩く、足を全く動かせない、おしっこをポタポタと漏らしてしまうといった麻痺の症状が生じます。椎間板ヘルニアで脊髄の神経にどの程度、圧迫が生じているかによって、症状の程度は変わってきます。
椎間板ヘルニアのグレード分類
胸腰部椎間板ヘルニアの麻痺の程度はⅠからⅤのグレードに分けて分類する事ができます。以下のように明確に分類することができます。
グレードⅠ:腰を丸めて痛そうにしており、動きが悪い。ただし神経麻痺の症状はない。
グレードⅡ:ふらつきながらも歩くことが可能。なんとか腰を持ち上げることもできる。
グレードⅢ:後ろ足を全く動かす事ができない。前足で這って歩くようになる。
グレードⅣ:後ろ足を全く動かす事ができない。足先の皮膚をつねっても痛みを感じない。おしっこを自分の意思ですることができない
グレードⅤ:後ろ足を全く動かす事ができない。足先の骨を強く触っても痛みを感じない。おしっこを自分の意思ですることができない
診断方法
胸腰部椎間板ヘルニアの診断を行うためには特殊な画像検査が必要です。椎間板ヘルニアが疑われる症例の検査は、その目的によって検査方法が異なります。椎間板ヘルニアを診断する為の検査にはCTやMRIが必要です。CTやMRIのある施設であると検査・治療が一度で済み、飼い主様ならびに動物への負担が減ります。CTもしくはMRI装置が無い施設では、検査センターでの麻酔と手術の為の麻酔と、複数回の麻酔が必要となり、身体や移動の負担がかかります。
治療方法
外科療法
犬の椎間板ヘルニアの治療のための診断を行うためには特殊な画像検査が必要です。椎間板ヘルニアを診断する為の検査にはCTやMRIが必要となります。
治療法のメインは、圧迫物質を脊髄から取り除く外科手術を行います。一般的には中程度〜重度の麻痺がみられる場合に手術を行います。軽度の麻痺の場合にも症状が持続し改善がない場合、脊髄が重度に圧迫されている場合を減圧するために手術の適応となることもあります。神経麻痺がGradeⅢ以上で重度な場合や、麻痺が軽度でも症状が長引く場合には早めの手術をお勧めします。
保存療法
激しい運動や背骨に負担のかかる衝撃を抑えることで、時間経過による脊髄機能の損傷の修復することを目指す療法です。突出した椎間板が吸収されるまで、約8週間の安静期間が必要とされています。歩行が可能な、軽度の神経麻痺の場合に適応となりますが、麻痺が重度な場合には外科治療が適応となります。一般的に用いられるのは一定期間ケージから出さず、運動量を減らす方法(ケージレスト)です。最近では動物用のコルセットも開発されており、保存療法の一助となることがあります。コルセットは腰の安定化を図るのに有効で、状況に応じて提案させていただきます。
手術費の概算
椎間板ヘルニア(片側椎弓切除術)<10〜15㎏程度までの犬> | |
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手術費用 | 約15万円 |
CT及びレントゲン造影検査 | 約8〜10万円 |
入院費(6日程度)及び治療費、検査費用 | 約12〜15万円 |
合計 | 約35~40万円 |
実際の治療症例紹介
飼い主様へのメッセージ
椎間板ヘルニアはグレード中等度以上では手術を早期にすることによって治癒の確立が上がることが非常に多いです。そのため内科治療で悪化してきたり、悪い状況なのに、二次診療を待つ期間があるといったことが許されない疾患です。グレードが中等度以上の場合は早めにご相談ください。必要ならその日のうちにでも手術をします。それが治療を成功させる一番の治療です。
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