藤井動物病院

藤井動物病院 公式ブログ

アメリカへ留学したわけ(3)

私は、日本で、外科の研究室に所属していました。外科はある意味花形の職業であるために、今でも人気の科です。日本の医療のテレビ番組でも、殆どは外科の番組ばかりですよね。しかしながら、アメリカのティーチングホスピタルといえども私にやらせてくれる外科は避妊、去勢手術程度で、他は見学になってしまいます。

また何よりも、触診の大切さに気付いたことがきっかけで、留学中、3年間はすべて内科に費やそうと決めました。内科と言っても、一般内科、皮膚科、内分泌科、循環器科、放射線科、脳神経科、小児科、腫瘍科をすべてを学ぶ決意でした。一般学生は大動物と小動物そして外科、内科と1年の三分の一程度が内科でしたが、私は1年間すべてを内科に居て、さらにもう1年一般内科だけで過ごしました。この経験は私にとって、診断のプロセス、誤診を極力減らす方法を身につけました。

実は、外科には診断というプロセスはないのです。基本的に内科で診断した症例を外科が切るという形なのです。私はこの留学中、内科に専念することで、病気が何であるかが分からなければ、何も始まらないという事に、ここで気付くことができました。これが後に自分の臨床家としての人生を支えてくれる物になったのです。なぜなら今までの私の父の時代は病院では経験主義で、臨床経験がない人は病気を見落とし、経験と勘の良い人は名医になっているからでした。

私は決して勘の悪い方でも、不器用な方でもないですが、スタッフ全員が同じ技量になるにはしっかりとした診断力を付ける事が大切であると考えています。獣医師によって誤診をしているような病院になっては困りますから。

しかしながら、当時学んだこのアメリカ式の診断プロセスを実施している病院は今現在でも殆ど日本にはありません。それは日本の教育機関では教えていないからです。仮に紹介はしているところはあったとしても、1年間を通して教育しないために実用化されないのが現実です。言い換えれば身につかない程度に教えているのです。あまり面白くないプロセスを身につけるのは大変な努力が要りますが、これを付けた後は、考え方を学ぶため一生ものになります。

幸い私はここに興味を持ってアメリカでの3年間の臨床生活を送ってきました。日本に帰国してから、20年間、そこで学んだ触診を基本に置いた確かな診断、そして、その診断をもとの治療をすすめてきました。

そして、今、この診断プロセスを理解し、触診、診断、治療できる確かな技量を持った獣医師を育てたいと考えました。ただ、それを習得するためには最低でも1症例に1日費やす努力が必要です。それを毎日続けたとしても、2年の年月は必要です。

そのプロセスは、SOAPと呼ばれています。これは問題指向(型)医療記録、(POMR: Problem Oriented Medical Record又はPOS: Problem Oriented System)の思考プロセスです。ビジネス書などで言うところの問題発見思考やロジカルシンキングと言ったところですが、考え方ですから、その知識を増やせば、一見できる様になった気にはなりますが、時間をかけ一つひとつの症例からその考え方を経験しなければ、本当の習得にならず、さらに実際の診断、治療に生かすことなどできません。治療現場は一つひとつが違ったものです。単なる知識の習得だけでは、その応用が効かないのです。(つづく