Fujii Times(ブログ)

2015年05月19日

「隔たりのなさ」を目指した待合室

当院は3年から5年ごとに受付の位置、診察室の位置を変えています。それは壁紙を貼り替えるとか、簡単なリフォームのような改装ではなく、まったく別の病院をつくる気持ちで改装をしてきました。

なぜこのような改装を続けてきたのか?

振り返れば、その試行錯誤は「飼い主さんとのコミュニケーションはどうあるべきか?」その探求だったと感じます。

改装当初は、落ち着いた雰囲気をめざし、色やソファもそのコンセプトに合せて統一していきました。こちらも以前の待合室より格段と良くできて、飼い主さんにも好評でした。

でも、まだ足りないものを感じました。それは飼い主さんとのコミュニケーションです。スタッフの対応が悪いわけでもなく、彼らは一所懸命に働いているのに、飼い主さんとの隔たりを感じていました。

この頃「コミュニケーションとは何か?」と随分、考えました。その考えの行き着いた先の結論は、コミュニケーションは「単に会話をする、丁寧に話をしたから伝わるというものではない」ということです。真のコミュニケーションとは「お互いの心が許されていると感じたときに、言葉はなくても伝わるもの」だと感じたのです。

であるならば「真のコミュニケーションが実現できる環境を考え、待合室をつくるべきではないか?」と考えるようになりました。それは「自然と挨拶や会話が生まれる」環境をつくれば、「飼い主さんとの隔たりを極力なくすことが実現できるのではないか?」と考えたのです。

最も大きく踏み切ったものは、待合室と私たちの仕事をする場所との隔たりをなくしたことです。どうにか飼い主さんにも我々スタッフが仕事を見てもらえるようにと考えました。とはいえ、全てをオープンにし診察や治療の妨げになってはいけません。また、ただ見えるだけでは隔たりは残ったままです。

その問題を解決するために、それまで横一列で並んでいた殺風景な診察室を一部屋つぶして廊下にしました。これで待合室は全体を見渡すことはできません。そのおかげで、何があるのだろう?と興味を持ってもらえます。

飼い主さんがその待合室を歩いていると、その終点には暖炉と目印となる飾りがありその横には我々の薬や処置の準備をする場所があります。待合室と準備室との隔たりは、床の色だけで、ドアも何もありません。飼い主さんが自然とそこへ誘導されることで、我々スタッフと顔をあわせることができ、そこで挨拶や会話が生まれます。

また暖炉の横には子どものために宝箱(持って帰ってもらうおもちゃが入っている)があり、子どもが自然と引きつけられます。その横は準備室ですからスタッフが子どもに向けて「こんにちは」と挨拶をしたり、「ひとつ好きなものを持っていっていいよ」と話しかけることもできます。さらには、なかなか帰ってこない子どもを探しに宝箱のところへ来る親御さんが来て、私たちと会話が生まれたりします。

加えて診察室も、我々が待合室を通り、飼い主さんを呼んで一緒に診察室に入るという形のドアが1つの部屋も増やしました。敢えて飼い主さんの前を通過して行動することで、飼い主さんと目があったり、話をしたりと、身近に飼い主さんを感じられるようになりました。

最近では、初めて会う飼い主さん同士が待合室で自然に声を掛け合い、会話をしている風景にも出合います。それもこの待合室をつくって良かったと思える瞬間です。今後も改装はあるかと思いますが、動物、飼い主さんにとって良い環境づくりをこれからも実現していきたいと思います。よろしくお願いいたします。